2008-06-30

オリエンテーリングの見学


 フィンランドでは、オリエンテーリングというスポーツが盛んです。自然の中に、いくつかのチェックポイントが設定され、それを地図とコンパスを頼りにたどって帰って来るという、まあ言ってみれば単純なスポーツです。詳しくは、どっかで調べていただきたいもんですが、昔、ちょっと日本でも流行っていたような記憶があります。そういえば自転車でも『とれとれバイク』(オフィシャルのページはどこになるの? 石丸さん?)という名で、マウンテンバイクを使った同じ趣旨のイベントが開催されていますね。

 オリエンテーリングは、フィンランドだけでなく北欧全体で盛んです。週末ごと、どころか週に何度も、地方のクラブチームが開催するオリエンテーリングのイベントがあるようです。実はこっちにくる直前のヘルシンキで、オリエンテーリングの日本ナショナルチームの一員である、小泉ナニガシさんという方にお会いしました。彼は、1ヶ月ほどフィンランドでトレーニングをして、7月12日にチェコで行われる世界選手権の準備をしていたとのこと。仕事とかどうしてるの? と聞いたら、勤めている会社に理解があって、実業団的な扱いにしてもらっている(つまり会社員のまま、レースに出場できる)とのこと。10年ほど前、檀拓磨くんや小林加奈子さん(やオレが)、お金をなんとか捻出しながら世界レースを転戦していたあの時代を思い返し、時代も変わったもんだなと、しみじみ感じ入ったものでした。

 さて今日は日曜日。近くで地元オリエンテーリング・クラブによるイベントがありました。かなりアスレティックな人である友人は参加するのだ、というので、応援がてら見学にしてみることにしました。


 クルマで着いた開催地は、もうどっかの自然のどっかの中。元は農地だったのか、掘建て小屋ぐらいはあるんですが、他にはとくに何があるわけでもない、フィンランドの大自然のど真ん中。ここに、次々とクルマがやってきては、老若男女が受付でサインアップし、森の中に消えていきます。ホントに盛んなんだなあと思い、どれぐらい参加者いるの? と聞くと、2週間前の大きな大会には、7人のチームで、1400チームほどの参加があったんだとか。応援の人とかも含めると、どれぐらいの規模なんだかあんまり想像つきません。



 森(とかいろんなもの)の中には、あらかじめ設置されたチェックポイントがあり、そのチェックポイントに電気式のタグをかざすと、そこを通った証明と、タイムがタグに書き込まれていきます。コースは距離を選べ、そのコースによって回ってくるチェックポイントの数と場所が異なります。今回は最短で2.8km、長いので7kmほどでした。



 参加費は4ユーロ。地形図の書かれた地図をもらって、その地図に、自分が参加するコースのチェックポイントを、自分で書き込んでいきます。地図には、とくに何が書かれているわけでもありません。驚いたのは、どっちが北か、方角すら書かれていないのです。そこにあるのは地形図のみ。チェックポイントの場所も、お手本のルートを見ながら自分で書き込んでいきます。信じられるものは自分の力のみ。それがオリエンテーリングの醍醐味のようです。



 スタートでチェックした後、みんなガシガシと走っていきます。一見トレールランニングのようですが、違うのは、そこにトレールがないこと。地図とコンパスを持って、こっちだ、あっちだと、道を探しながら走ります。そんなイベントです。



「日本から来てさ、初めて見たんだ」と言うと、「日本では、やってる人はいないのかい?」と聞かれます。あんまり聞いたことないですね。だって、オリエンテーリングには、日本で流行らない明らかな理由があるのです。それは、そこに道がないから。

 日本文化のメンタリティーとして、道がないところは歩けない、というのがあります。そこにある道をきっちり辿る、というのはそれこそ他の国の追従を許さないほど高レベルで得意なのですが、道がないところを、自分で探して歩いてちょうだい、となると、もうおろおろ歩きになってしまいます。これは辛口とか悪口とかではなく、純然たる傾向です。

 一ヶ月ほど前に発売されていた『ナンバー』誌に、元サッカー選手、中田英寿さんのインタビューが載っていました。その中で、彼もこんなことを言っていました。「日本の選手は、こうしなさい、と言われたことはものすごくきっちりこなせるが、自分で考えて動きなさい、と言われると、とたんに固まってしまう」

見学だけのつもりが

 フィンランドでは、老若男女もなすオリエンテーリング。子どももおばあちゃんも、楽しそうに森の中に消えていきます。


 おばあちゃんもやってるのかー。おばあちゃんがー。おお。おおおおお。おおおおおおおおれもやる!

 なにせバカなので、いま目の前にある楽しそうなものを、ただ見てるだけというのができません。そのときは短パン&Tシャツだったのですが、たまたまクルマに雨具がある。そいつを着て財布から4ユーロを取り出し「おれもやりたいけど」と、受付の人に申し出ました。

 と、そのとき汗をダクダクにかいた友人が戻ってきました。「一番短いコースだと、どれぐらいかかるだろう?」「40分ぐらいじゃないか?」「おれさ、やるから。やるから。1時間ぐらい待っててよ」

 と言い残し、受付でタグをもらい、スタートでピッとやって、一人森の中へとごーごごー!


 で、森の中。目印みたいなものは、なんにもありません。方角の書いていない地図を、地形をだけを頼りに「たぶんこっちが北だろう」と信じ、チェックポイントのあるであろう場所へと向かいます。そうそう、地図上で引いた、チェックポイントを結ぶ直線なんて、なんの役にも立ちません。そこには倒木があり、湿地があり、自分の向いている方向は刻一刻と変化するので、もうコンパスと自分の心以外に、頼れるものはないのです。



 森の中、深く踏み入っていきます。前の人が走った後なんてないし、たった一人だし、なんか違った方角に向かってるし、初心者コースのはずだし、そのへんでガサガサいってるし、あっちの空がなんか暗いなと思ったら、ゴロゴロとか雷聞こえるし、携帯電話とかないし、お化けとかいないし、もうギブアップとかいっても誰もいないし、チェックポイントこの辺のはずなんだけどないし、もうどうしよう。

 と泣きそうになったそのとき、第一チェックポイント発見。ほっとして、やっぱり泣きそうになる。


 んがしかし、男の子なので、次のチェックポイントに向かいます。チェックポイントは、自分の正確な場所が分かる大切な目印。ここを元に、地図のどっちが北なのかを、地形を読みながら心に刻む。あっちだ! と向かう先にあるのは、さらに深い森。んがー。

 そのさらに深い森に入ります。小さな川を飛び越えて、手つかずの自然の残る、原始の世界へと。



 もうー。こっから先はあれです。泣きそうーポイントあって泣きそうーまた泣きそうを繰り返しつつ先に進みます。そして、いくら探しても見つからないチェックポイントのあたりで、往生しました。でかい蜂(だとおもう)がブーンとか威嚇して来るし、


その辺になんかのうんこがあって、やっぱりいるのかー、とか思う。

大きな岩があってその上に立って、ガオーとか吠えて空元気だしてみるものの、あたりはうっそうとした森。暗いし寂しいし、もう方角もどっちかわかんなくなるし、ヘンゼルとグレーテルの気持ちがよくわかる。お菓子の家でも見つかんないかしら。


 とか、もやもやしてたらついにやっぱり雨が降りだした。ごろごろごろー。

 時刻はすでにスタートから1時間半以上経過。実はこの辺りになると、自分の中の野生が目覚めたのか、結構落ち着いて地図読みしながら自分の位置を確認しながら歩いてましたが、ここで、もうおしまい、と超決定。ギブアップして戻ることにしました。いわゆる勇気ある撤退というやつ。

 いつもその決断が早過ぎやしないか、という疑問も同時にわきますが、手遅れになる前に手を打つのに超したことはない、との言い訳も常に用意されてます。

2008-06-29

やったよサカタさん


 サカタさん、ついにやりました。やりましたよ。やっと、アナタとボクの夢を実現することができました。

 思い返せば2年前。2人で作ったサウナのページでの取材は衝撃的でした。日本サウナ協会の方が放った一言「本場フィンランドではサウナに入ったあと、湖に飛びこむんですよ」。これを聞いた瞬間に、「と、飛びこみたい……」と、2人の心は1つになり、本物のサウナを求めて徘徊する、2人のサウナバカが生まれましたね。ボクの誕生日に、サカタさんが自腹でプレゼントしてくれた、後楽園サウナのフルコースの味は、今もしっかりと覚えています。

 友人に連れられてやってきた、彼のサマーハウスは、湖のそばに建っていました。こ、これは! と立ちすくむボクを尻目に友人は「じゃ、サウナでも暖めるか」と、サウナストーブにマキをくべ、火を焚きました。

 ソワソワ待つこと1時間。十分に暖まったサウナに裸で入り、アチアチになったサウナストーン(こちらではストーブストーン、と言う意味のフィンランド語で呼ぶそうです)にジュウ、と水をかけます。そうです。あのブワッとくる蒸気、取材で習った『ロウリュウ』です。この蒸気『ロウリュウ』に身を包まれると、ドバッと一気に汗が出てきます。

 汗を存分にかいたところで、ついに、ついにサカタさん、その瞬間がやってきました。ハダカのまんまでドアを開け、蚊にさされるのもモノともせずに、湖のうえにかかる桟橋をゆっくりと、しかし確実に前に足を踏み出し、そして助走を開始しました。このときのボクの心はサカタさん、アナタのことでいっぱいでした。

 さっき触った湖の水は冷たかったです。心臓マヒ? という不安もよぎりましたがサカタさん、今のボクは1人ではありません。遠く離れていても心は1つ。2人のバカが1つのカラダとなって、素っ裸で、桟橋を駆け抜けているのです。

とう!



 フィンランドの湖はきれいです。深夜12時にもなると夕日が湖面に写り、森の影とのコントラストが、幻想的な姿を見せてくれます。サカタさんありがとう。『ターザン』でアナタとサウナのページをつくらなかったら、フィンランドをこんなに楽しめることもなかったでしょう。サカタさんありがとう。2人で飛び込んだ湖は、冷たくも温かく、2人のカラダを冷ましてくれました。

 でも、本場の人々は甘チャンです。サウナの温度は65度ぐらいでオッケーとか言ってます。こっちが、さあこれからだと思っている矢先に、「暑いよ、もういいよ」と出てしまいます。さすが氷河期を乗り切った遺伝子を持ってるだけあって、寒さにはメッポウ強いが、暑さにはカラキシ弱いです。

 あとロウリュウは、こっちでは「レウルー」と言ったほうが通じます。そして、一発、二発みたいな使い方、数え方をするみたいです。友人が「さ、あと一発レウルーくらってシャワーでも浴びるか」みたいなことを言ってたんで、たぶん間違ってないと思います。

2008-06-27

フィンランド_ローカル生活スタート


 実は、リストウォッチ・コンピュータ&精密コンパスでおなじみ、Suunto(スント)の本社を訪ねてた。フィンランドがなぜSuuntoとかNokiaとかの精密機器でおなじみかというと、木の国だからだ。この国には木がたくさん生えている。図書館でさまざま調べてもらえればすぐわかるが、木がメインの産業だったので、製紙工業が盛んだった(いまでも?)。紙を造る技術と心意気を精密機器に当てはめてみたら、かなりいい感じに精密機器を造れたので、フィンランドはそういうハイエンドの機械的なやつをいい感じで造れる国になったそうだ。ポルシェとか他のヨーロッパなクルマのハイエンドモデルは、だいたいフィンランドで造られてるそう。そういえば日本も製紙から造船へと工業が移ってったんじゃなかったっけな。

 いろいろあって知り合った友達が、フィンランドのアウトドア雑誌の編集長で、「フィンランドに来ることがあったら、オレんち泊めてやるから来いよ」と言われていた。その言葉をたよりに、ヘルシンキから北に150km、Lahti(ラハティ)近くの内緒の街にきた。今日から数日間彼の家にお世話になる。

 日本以外の雑誌編集関係者は、その雑誌が取り上げるテーマが好きで好きなので関わってる連中が多いから、付いた早々、やっぱりマウンテンバイクに乗ることになった。家のすぐ裏からトレイルが出ているので、家を出てトレール乗って帰ってきてサウナ入ってプールで裸で泳いで(びっくりした)ビール飲んで、かなりいい感じでこれを書いている。友人はいまテレビでサッカーのヨーロッパ選手権を見ているが、例によってとくに興味もない(悲しいな)。

 では、フィンランド・レポート。


 ・ここはアアルトマリメッコとイッタラの国。どこ行っても、その辺に普通にアアルトデザインとマリメッコとイッタラがあり、そういうオシャレなこと、なにも知らないボクは非常に申し訳ない気がする。郊外にあるトラック野郎御用達のドライブインに入ったら、マリメッコのクロスが適当に敷いてあって、とてもかわいかった。

 ・来るお客はだいたい顔見知り、みたいなそのドライブインで、マッシュルームスープとカツレツを喰ったが、かなりうまかった。この間、Sunnto本社の社員食堂で食べた、下写真のビーツスープもすごくうまかった。甘くなく、コショウテイストだった。このように、スープのうまい国として有名である(ホントか)。


 ・大学は、全部公立。どこの大学に行こうが、一銭もかからない。社会的にも大学名やはもちろん関係なくレベル的には一緒に見られる。大切なのは、その人がどういうことに興味を持ち、どういうことで国の力になれるかということのよう。最近の大学系話題は、数年後にできると言われている大学。その名も『アアルト大学』になるそう。美大、工科大、そしてビジネス大学を一緒にした、もう無敵のモノ作りができる人材育成を目指しているみたい。で、ここにはフィンランドの企業、ノキアとかマリメッコとかが資本を投下する、という噂もある。まあ数年後になれば自ずとわかることでしょう。

 ・裕福かどうかに関わらず、だいたいの人は、サマーハウスと呼ばれる、サウナ付きで湖のそばにあるサマーハウスを持ってるそう。ちなみに夏休みはまるまる4週間。

 ・夏休みが4週間! 休みすぎちゃうん! て説教したら、「でも他に祝日ないし」て言われた。考えてみれば、日本の祝日を全部足してみたら、28日間より断然多いかも。「ほら、それを全部まとめて取ってると思えば」て説得された。なるほど。確かに夏が1ヶ月半しかないこの国なら、休みを全部夏にとるのは、かなり普通か。

 ・フィンランドでは、スキーと言えばクロスカントリースキー。だから(クロカン)スキートレールがそこら中充実している。日が暮れるとスキートレイルの上にはライトが付く。もちろん夏に日が暮れると言えば、午後10時30分以降なので、そのぐらいにトレールの上に電気が付く。そう標識にも書いてある。

2008-06-25

ミネアポリス土産

いまはヘルシンキ@フィンランドにいるのですが、ミネアポリスのお土産です。自転車カフェで見つけて盗み撮り。日本ではTrail Storeでお見かけできるとの未確認情報も。参考までに、トレーニングでムキムキなのは、我らがBMXer、ティンカー・ウォーレス。

























2008-06-24

2009 Salsa El Kaboing (26 inch)


 自転車に乗るのは、本当に楽しい。ボクの自転車に対するスタンスは『何に乗るか』ではなく『どこをどう乗るか』ということでしかないので、どんな自転車に乗っていようが、乗れりゃあ実はそれだけで楽しい。でもまあ乗るなら、自分の乗り方とリズムにばっちり合ったやつがいい。中でも長年連れ添ったやつに乗るのが一番自由で気持ちよくなれるのは、セックスとなんら変わるところはない。


 がしかし、自分のできることを増やしてくれる自転車に乗れるのは、楽しいを超えてうれしい。今回、サルサの新車試乗会(with キャンプだホイ)で、久々にうれしくなれるマウンテンバイクに乗った。もしかしたら走ったトレールがすごく楽しかったから、うれしくなったのかもしれないが、先輩(元プロBMXレーサー)も乗ったあとの開口一番に「楽しいね、このバイク」と言っていたから、本当にそうなんじゃないかと思う。


Salsa_El Kaboing》だ。日本語表記だと「エル・カボイング」てなるんだと思う。boing、ボイング、というのは日本語だと『ビヨーン』みたいなことになる。10年以上前に、サルサが出したリアサスモデルに付けられていた名前を、また付けたというストーリーを持つネーミングである。意味的に言うと『ザ・ビヨヨーン』てなもんか。

 技術的に言うと、素材はスカンジウム。5インチ(130mmぐらい)動くリアサスはリンクに見えるが、機構的にはシングルピボット。スペシャライズド社はいい加減、例の『ホルストリンク』特許をオープンにしてくれないもんかと切に願う。スイングアームの動きを、サスユニットと薄いシートステーのしなりを組み合わせてコントロールしたものだ。動き的に言うと、まあリアサスならではのペダリング感だが、とくに悪くもない。


 一方、とくに良いのは、このエル・ビヨヨーンが、名前通りビヨヨーンと飛ばせてくれるマウンテンバイクであるところ。

 15年ぐらい前、ボクが当時存在したMTB専門誌の手伝いみたいなバイトをしてたころ、トレックが初のリアサスモデルをリリースした。名前は忘れたが、このトレックは、振動吸収とかなんとかいうより、よくできたバネであった。

 当時いくつかのブランドがリアサスモデルを造っていた。『リアサス一気乗り』みたいな企画の手伝いだったと思うのだが、これら全部に乗れる機会があった。当時のボクは自転車でジャンプなんか飛べない人だったのだが、それでもトレックのやつに乗ってジャンプ飛び面に突進していくと、なぜかビヨーンと飛べたのだ。他のやつでは浮きもしなかったのに、こいつだけはビヨヨーンて飛べるのだ。うれしくて、何度も何度も何度も飛んだ。プロライダー君にバカにされても、それでも飛んだ。本当に飛べるようになったのは、それから10年以上経ってからのことである。


 今ではそれこそ何に乗っても、ボクなりにそれなりに飛べてしまう技術を身につけてしまったため、これから述べることが全ての人に当てはまるとは思えない。でもこのエル・カボイングは、あのときの飛べてうれしいうれしい感を、久々に思い起こさせてくれたマウンテンバイクである。


 トレール内のちょっとしたギャップで、軽くポイって飛ぶ動作をしただけでビヨーンて飛ぶ。その飛び方も、前に投げ出されるような危ない飛ばされ方ではなく、後ろに重心を残す、リア着地しやすい飛び方だ。ギャップで飛んで壁に着地してみたり、岩や根っこがジャンプのキッカーに見えてきたり。いつものトレールで、いつもよりクリエイティブに走れそうなバイクだった。

 
 重量は重くない。というより見た目より全然軽い。素材であるスカンジウムのおかげだと思う。走りは決して軽くはない。今どきの5インチストロークのマウンテンバイクなら、当たり前の走りの軽さであり、軽くなさである。だが、そこらにあるフルサス マウンテンバイクになくて、コイツにあるのは、飛べる力を与えてくれるという点だ。その意味で、名はしっかりと体を表している。

2009 Salsa - Big Mama (29 inch)


 最近のサルサは29インチホイールのマウンテンバイク、いわゆる29er(トゥー・ナイナー、あるいはトゥエンティ・ナイナー)の雄として知られている。アメリカでは24時間耐久レースや、100マイルレースといった長距離エンデュランス系のイベントでよく使われ、愛されているそうだ。

 もともとサルサは、ワカッた人に人気が高いというイメージのある、わりとコアなブランドである。サルサを創った男、ロス・シェーファーがそういう人だったから、というのがその理由の1つ。彼は現在はプロダクト・デザイナー、というより実際にモノを造っちゃう人として生きているようで、この間なんか、クルマのショーのため、3日でエンジンを0から造り上げたそうである。


 では今、サルサを造り、売っている連中はどないだ。そこまでコアなのかどうかは知らないが、かなり走れる連中である。ボクもマウンテンバイクには、人並み以上程度には上手に乗れると自負しているのだが、そんなボクと開発陣&マーケティング陣とが、大笑いしながらトレールで一緒に遊んだ。そういえば、サルサにラインアップされてるバイクのコンセプト、素材やパーツ選びなどを読み込んでいくと、その走れる感じが反映されているのがわかる。毎年ちょこちょことモデルチェンジをしないのも(そもそも毎年変えるのが変だ)そういった理由なのだろう。なかなかに頼もしい。


 さてそんな連中が造った、サルサの心髄とも言える29erの最新フルサスモデル《Salsa_Big Mama》。見た目もリアサスの機構も26er《El Kaboing》と同じではあるのだが、方向性とか乗り味とかは、全く異なるマウンテンバイクである。ホイールサイズの違いを差し置いてもだ。唯一似ているのは、こいつもやっぱり、名が体を表しているところ。結論から言うと、このビッグママは、まさにビッグなママ的な乗り味なのだ。


 初めてまたがったときの第一印象がおもしろかった。あれ? これホイール26インチ? と思ってしまったのだ。それぐらい26erから乗り換えても違和感のないハンドリングだが、実際に走ってみると、そこはやっぱり29er。26erのつもりで乗ると、前輪が上がりにくかったり、コーナーでの挙動が1テンポ遅かったりする。
 

 しかしそのゆったりとした挙動のタイミングに、いったんリズムが合うと、こいつは突如として安心感の固まりに変わる。大いなる母の愛に包まれたような乗り物になる。

 いつの世も、母の愛は偉大である。子どもである乗り手が望むなら、その進路に岩があろうが根っこがあろうが、そんなものは乗り越え蹴散らし(ちょっとウソ)モノともせずに、子どもの選んだ進路を応援してくれる。おもしろいぐらい、スピードが落ちないのだ。29erだから、しかも4インチストロークのフルサスだから、と、理由はいろいろあるのだろうけれど、その結果として、戦車のような乗り心地が生まれた。地形上の最速ラインを、最小限の体の動きで走れるのだ。トレールで前を走る、長時間のフライトで腰の痛くなった先輩が「こりゃ楽だわー」と何度も叫ぶので、うるさくもあった。


 しかし、その戦車感は、道幅の広いダブルトラックの下りで一変する。ぶっ飛ばすほど、26er的コントロール性の素直さが顔を出す。例えば林道で、隣のワダチに軽く飛んでラインチェンジ、みたいなときにも、スパンと飛べてスパンとキマる。長い下りから上り返してちょっとまた下ってるところで、その切り返しをきっかけにジャンプしてみると、これがモトクロッサーみたいなイメージでボカーンと飛べて気持ちいい。規模がでかいと、速度が出ると調子いい。

 スピードバイク? そんな言葉が何度も頭の中に浮かぶ。シングルトラックだろうが、ダブルトラックだろうが、細かいことは気にせずに、人生でっかく行かなきゃ損よアンタ、という肝っ玉カアチャンの声が聞こえてくるかのようである。大いなる母は、ビッグサイズの似合うママだったのだ。


 なのにスタンドオーバーハイトは低く、またがって地面に足を着いたときの股下には、トレールの中でも充分に余裕がある。足の長さに不自由しがちな極東ピープル、ガールズなどのスモールな人々への思いやりも忘れない。ビッグなママの細やかな心遣いである。