(この文章は、米国の雑誌『マウンテンバイク アクション』2010年8月号の記事を、原文にほぼ忠実に、日本語に訳したものである。「すべての庭に、パンプトラックを」その想いを、英語が読めず日本語が読める方々にも伝えたく、広めたく、翻訳を行い、公開している)
『すべての庭にパンプトラックを 』
●土の山は、プールよりすばらしくなるのか?
間違ったスタートと、グズグズと何年も無駄な時間を過ごした後、MBAのパンプトラックは、ついに完成した。世界チャンピオンの専門技術と寛大さ、2400ドルの現金、18 X 18 mのバックヤード、そして合計40時間の手作業により、土の山は、乗りやすく永続的なパンプトラックとして生まれ変わった。このMBAパンプトラック誕生秘話は、あなたにもパンプトラックが必要かを判断するためと(もちろん必要だ)、それを作るために必要になることだろう。
【基本】----------------
パンプトラックとは、ペダルをこぐことなく周回できるダートトラックのことだ。ライダーは、ローラー(こぶ)とバーム(丸く角度の付いたコーナーの壁)を使って、「パンプ」してペダルをこがずに加速することができる。
このコブを乗り越えるときに、自転車を引き、そして押すことで、スピードを得る。コブにさしかかったときにハンドルを引き、コブを越えるときに、ペダルを押す。ダンスのようなものだ。全ては腰の動き次第である。
バームには、低い姿勢で進入する。そして遠心力が体をバームに向かって押し付けようとするときに、その力を脚で押し返し、加速するという物理学である。強い力(と適切なタイミング)で押すことにより、さらに加速することができる。コーナーの出口ではその加速をさらに増すため、できるかぎり強く押すことになるわけだ。
【物語】----------------
マルゾッキがカリフォルニア・バレンシアに作った秘密のパンプトラックで乗り、そしてオハイオ・クリーブランドにある《レイズ・インドア・マウンテンバイク パーク》で時間を過ごした後、我々はパンプトラックに完全にハマった。我々はリー・マコーマックが書いた『ウェルカム・トゥ・パンプトラック』の本をつかみ、簡単な三角形のトラックの設計図を地面に描いた。土を運び入れることなく、土を掘り起こしてコブを作った。バームは、そのバームの後側の土を掘り起こすことで、作ってみた。
これら我々の作業の結果は、手のひらに豆を作るだけであった。パンプできないコブと、流れのないバームができ、そして地面からは、大量の蚊がわき出してきた。リーの指導が悪かったわけではなく、我々が悪かった。足りなかったのは、専門知識、労働力、そして理にかなった制作資材と機材。このために、正しいパンプトラックは出来上がることなく、そのうち雑草がこの間違ったトラックに生い茂り、長い眠りにつくことになった。このトラックが蘇ることになったのは、GTの新製品発表会で、エリック・カーターに会ったことがきっかけである。
エリックは、我々のこの失敗談を聞いて、パンプトラックについて語り始めた。驚いたことに、そして彼は後悔していたかもしれないが、我々のためにパンプトラックをデザイン、制作してくれるという話になったのだ。もちろん、彼の指導に基づいて、というのが前提である。世界チャンピオンによる、我々にとって一生に一度であろう申し出を、断るはずもない。
【方法】----------------
エリックはグーグルアースを使い、どの程度のスペースが必要になるのかという算段を行った。彼は三角形よりもいい提案があるといい、50立方メートルほどの土が必要になると試算した。土はあるところにはあって、機会さえあれば安く手に入るものであるが、土を待つことで、このめったにないエリックとのチャンスを逃すわけにはいかないので、カリフォルニア・ソミス(我々がパンプトラックを作る場所の近く)にある、ピーチヒルズソイルという土の会社を訪れた。
土の会社の人々と出会うのは、今回の中で、もっとも尻込みした行程だ。とにかく土の種類がたくさんあり、そのどれ一つにも、「パンプトラック用」と銘打たれたものはない。我々は土をどのように使うのかを説明し、ピーチヒルズソイルは砂と粘度とが混ざった、固まりやすそうな土を選んでくれた。ダンプカー4台分、1800ドルを支払った後、土は中庭に持ち込まれた。我々は、本当にこの土がエリックの偉大な計画にふさわしいものなのかと、眠れない夜を過ごす。
【機材】----------------
エリックは、彼の魔法を実行するのにふさわしいトラクターを選んでくれた。実行の日にあたり、我々が借りたのは、《ボブキャット/S630 スキッド ステア ローダー》である。
さらに、《ラマー》という拷問器具のようなものもレンタルした。この恐ろしげなバネ付き棒のような道具は、4ストロークのエンジンで上下に動き、その下にある全てのものを押し固めてくれるのだ。我々はこの《ラマー》を使い、エリックが動かした土を固める。
これら機材のレンタルのために我々は、600ドルを支払った。そして、この日のために集められるだけのシャベルと熊手を用意し、その日を迎えることとなった。
【施行】----------------
もし、パンプトラックを10時間で作ろうとするミラクルな計画を実行しようとするのなら、その日には、なにひとつ無駄なことはできない。エリックは午前9時に現れ、機材、土、予備のガソリン、食べ物、飲み物と我々の準備は万全だった。
おどろいたことに、エリックは設計図を持っていなかった。彼は18 X 18 mの土地を歩きながら、ゆっくりと計画を練った。そして数分後、基礎となるプランができあがるーー彼の頭の中に!
エリックはボブキャットのエンジンをかけ、コブをつないでゆく5つのバームを作り上げる。バームの形が出来上がると、ラマーを使い、柔らかな土の盛り上がりを、押し固めてゆく。バームが完成したのちに、今度はコブを、同様の作業で作り上げてゆく。
シャベルと熊手を使って、バームとコブの表面を仕上げてゆく。昼食を食べる以外には、そこにいた全ての人間は、日が暮れるまで休むことはなかった。そしてついに、エリックが完成を宣言する時が来る。ついに終わりか? いや、これからがライディング・タイムである。
【ワン・デイ・パンプトラック】----------------
朝は不可能に思えたことが、今、実現している。10時間前には、ただの土の山だったものが、いまはパンプトラックになっている。このあと、10時間乗り続けていたかったものの、南カリフォルニアの一日はそんなに長くはない。
次の日の朝、レンタルした全ての機材を返却し、シャベルや熊手を納戸にしまい、ついにそのときを迎えた。エリックのトラックは、さまざまなラインが選べるようにできていた。作業中に、余計なのでは? と思われた平行する2つのバームは、結果として最高に楽しいセクションとなった。というのも、2人が互いに競いながら走ることができるからだ。
しかしエリックの顔には、満足した表情はない。なにかが足りないのだ。彼はシャベルをつかみ、新たなセクションを作り始めた。我々はただ、彼の動きを見つめるのみである。そしてエリックは再びバイクにまたがり、3周ほど走ってスピードを上げ、新たに作ったセクションにさしかかる。そこで彼は進行方向を変えたのだ。彼が付け加えた簡単なセクションが、このトラックを走るライダーの動きを、時計回りから反時計回りへと、走りを止めることなく変えることを可能にしたのである。すばらしい、すばらしいよ、エリック。
【ヒントとトリック】----------------
免責同意書;受け入れがたいことだけれども、パンプトラックが引き起こすかもしれない全ての事態に付いて、弁護士に相談しておくのが最善である。あなたの作ったパンプトラックが、近所にいる全ての子どもの目には天国のように映ることは間違いない。そしてパンプトラックには、彼らに大けがをさせる可能性があるということも、忘れてはいけない。
やりとげること;我々のトラックは、その間違った作り始め方、そして機材がないことにより、何年も眠ってしまっていた。もし、あなたがパンプトラックを欲しいと思うのなら、作業に何ヶ月もかけない方がいい。予定を立て、同志を募り、作ってしまうことだ。乗ることさえできてしまえば、その気持ちは、さらに加速していくはずである。
土を入れる;穴を掘って土をかき出すのは、水はけを悪くする。土は掘って作るのではなく、持ってくるのが最適だ。無料の土を手に入れるか、あるいは思い切って買ってしまった方がよい。
さらに土を入れる;50立方メートルの土は、ダンプカー4台分である。一見、多すぎるように見えるだろう。しかし、そんなことはない。エリックはトラックにロールインできるランプ(丘)を作ろうとしたが、その前に土が尽きてしまった。我々の場合、本来なら、控えめに言って75立方メートルほどの土があってもよかったのだ。
適切な土を選ぶ;砂っぽい土は固まらないし、石混じりの土はパンプトラックには適していない。土はレンガのように固まらなくてはならないし、氷塊のように滑らかでなくてはならない。もし土が固まらないのなら、パンプトラックは作れない。
専門知識を入手;もし誰かが、パンプトラックの作り方を知っているというのなら、その人がつくったトラックを見せてもらうとよい。さらにいいのは、乗ってみることだ。「パンプトラックの作り方を知っていると断言する、なにひとつ知らない人に、ボクは何人も会ったことがある」とエリック・カーターは言った。
水はけについて;エリックは、トラックの一番低いバームに排水のための溝を作り、降った雨がそこに集まるように計画した。彼は正しかった。その排水溝は、我々のパンプトラックが、パンププールにならないよう、働いてくれている。
終わりはない;あなたのパンプトラックは、常に進行中であると考えたい。周回を重ねるたびに、さらなる改善のアイディアが浮かび上がってくるからだ。
Uターン;あなたのトラックは、両方向に走れるようにしておきたい。止まらずに走れるようになれば、なおよい。走りながら方向が変えられるセクションを作っておけば、あなたのパンプトラックは、2倍楽しくなる。
可愛くしよう;我々はバームに、ヒマワリとメセンブリアンテマ(ツルナ科)を植えた。
ご近所の目;もし、パンプトラックをライトアップしたり(我々はそのつもりだ)、スピーカーを置いたり(すでにした)しようとするなら、近所の迷惑にならないように配置したい。
【さらなる利益】----------------
パンプトラックは、本当にマウンテンバイキングか? 答えはノー。ペダルを漕ぐことはないからだ。しかしこれを『クロストレーニング』として考えれば、最適の形である。あなたは、パンプトラックで身に付けた技術を、山で乗るたびに思い出し、使うことになるだろう。あなたは、パンプで前に進む力を作り出せることを通して、これまでとは違った視点でトレイルと、そして走りとに向き合うことになるだろう。あなたはコーナーで、これまで以上に自信を持つことができるだろう。20分間のパンプトラックでのライドにより、あなたの上半身は、普通に2時間乗っているよりも鍛えられることだろう。
パンプトラックは、近所の人々が集まる、ソーシャルな場としての働きもしてくれる。7才から60才までのライダーがあつまり、同じところを走り回るというのも、珍しいことではなくなるはずだ。パンプトラックは、友達や家族とチルする(なごむ)ためのすばらしい会場となる。我々はトラックの周りに、テーブル、いす、そして火を焚ける場所を設けた。
【乗るマウンテンバイク】----------------
パンプトラックの最も良いところは、ダウンヒル・バイク以外なら、なんでも乗れるところである。5インチ・トラベルのフルサスバイクでも、サドルを下げれば乗れる。29er(ツーナイナー)やロングトラベルのオールマウンテンモデルでチャレンジするのも、まったく問題ないことである。
ただ、これまでの多くの問題を乗り越えて、パンプトラックを作ったなら、こんなバイクで乗るのはどうだろう。スペシャライズドのPシリーズや、スコット・ヴォルテージ、ジャイアント・STP、トレックのチケット(日本未発売、残念)、あるいはハローのスティール リザーブ。これらに乗れば、パンプトラックが、より楽しくなる。
【パンプせよ】----------------
パンプ自体のやり方は、経験者ならすぐに身につけられるはずだ。我々はこれまでに、初めての経験にも関わらず、何周も続けてパンプしたライダーを見てきている。初心者であれば、技術を学ぶこと自体が楽しいだろう。というのも、パンプトラックには、見て怖くなるようなものはなく、さらに、普通のマウンテンバイクと違い、疲れ果てたとしても、山の中にいるわけではない。パンプできないライダーは、無理にパンプする必要もない。ただ走り回って、感じをつかむだけでもかまわない。技術はあとから付いてくる。
【すべての庭に、パンプトラックを】----------------
さて、パンプトラックを作るまでの話はこれでおしまいだ。これはマウンテンバイキングではないが、しかし、マウンテンバイクでの走りであり、走りの技術を高めるものでもある。あなたは、これまで知らなかったご近所さんと、会話を交わすことになるだろう(いい話だとよいのだが)。さらに、学校やオフィスでクサクサした気持ちを吹き飛ばす、簡単で手っ取り早い方法でもある。
パンプトラックの世界へようこそ。