普通のナンパはうまく運んだ試しはないが、自転車ナンパとなるとその打率は100割にも跳ね上がる。しぇんぱーしぇんとだ。ウォーと気分のアガる自転車を見るとつい声を掛けてしまうのは取材仕事を繰り返してきた習性なのか、ここで会ったが運のツキ、ツイてるのはオレの方なのだが、お願いだからあなたの自転車見せてくださいと熱烈アタック。週刊誌企画の『あなたのおっぱい見せてください』的な。あれはほんとにヤラセじゃなかったのか。
昨日のナンパはすごかった。
《ファットチャンス》だ。'90年代最高のマウンテンバイクフレームと(オレに勝手に)言われ、その存在を知る人はのどから手が出るほど欲しかったフレームだ。びよーん。1977年、クリス・チャンス氏の手によって作られ、ふと目を離したスキになくなってしまっていた。これを取り扱っていたA&Fのカタログで、かのクリントンさん(葉巻の方)も誇らしげに乗っていたのを見た。
さて桜さく並木の下でナンパしたこの《ファットチャンス》は、まさにイメージそのままのカラーリング。<ヨー エディ>のチームモデルだと思うんだけど、10年以上経つのにその蛍光色はいまだ健在。だがこいつの一番のチャームポイント、実はBBとヘッドチューブの内側だ。一度だけ新品フレームのそのへんを見たことあるのだが、びっくりした。ピカピカのつるつるなのである。美しいのである。こういった表に出ない箇所は通常、サビだったりバリだったり適当に放置されることが多いのだが、そいつはまるで磨き上げられたかのように、滑らかな内側だった。今になって調べれば『シームド溶接』とかいうらしいが、こういうものこそが、高級フレームなんだなあと感動した覚えがある。
そんな話をすると、オーナーの方も喜んでくれて、いろんな想いのたけを伝えてくれた。「当時のパーツで組もうと思ってね」7速XTを探したんだけど見つからず、仕方なくその少し後に発売された8速XTRを見つけ、渋々ガマンしてるとか。その流れるようなデザインといぶし銀の美しさが今なお評判の初代900系XTRなのに、それでガマンなんて人には初めて会った。
グリップは、ジョニーTことトン・ジョマックがパッケージを飾っていたODIのマッシュルーム。当時感バリバリの蛍光イエローで、今どきファッションバイカーにはできれば内緒にしたい銘モデル。ピンクとかパープルもあった気がする。濡れると滑るが、素手でのニュルとした握り心地はいまだ忘れない。リムにアラヤRM-17、サドルにアボセット、シートピラーにはサカエと当時のスタンダードそのままな組み具合に、オールドスクール・オフロードライダーたちはいろんな思い出をフラッシュバックさせるに違いない。
オーナー的に納得できない部分がもう一つあって、みなさんもちろんお気づきだろうが、クラインのミッションコントロールである。ヤナギも使って勝ちまくってたこのハンドル一体ステムは当然ノーマル(!)サイズの1インチコラム。「モンキーで作ってた、ダイレクトクランプのピンク色のステムを付けたいんだけどね」。今どきあのフォークコラム・ダイレクトステムを知ってる人もなかなかいない。
では試乗だ。ほぼ街乗りだけなのでタイヤは細身だが、それなのに下のレンガ畳の振動は伝わって来ない。というより、フレームが滑らかに吸収しているというイメージだ。ニュルーンとスルーンと前へ出る。倒すととても素直に曲がる。ミッションコントロールのステム長は今にしてみりゃ長い(ヤナギはよくこれで勝ってたな)ので短いのにしたくなるが、ハンドルに頼らず乗れば、カラダの下でバイクは右へ左へ思うがまま。長年の夢が昨日、ついに叶った。
かたくなに独自の道を歩んできた《ファットチャンス》は、モノの質よりカネの量を好むシステムに負けた。その後、そのあり方としての願いをブランド名にこめた《インディペンデント》を設立したのは有名な話だ。しかし、オレの心を震わせた、あの美しいBBワークは、既に過去のものになってしまっていると聞く。実に残念である。まったく緑ってヤツは。
昨日のナンパはすごかった。
《ファットチャンス》だ。'90年代最高のマウンテンバイクフレームと(オレに勝手に)言われ、その存在を知る人はのどから手が出るほど欲しかったフレームだ。びよーん。1977年、クリス・チャンス氏の手によって作られ、ふと目を離したスキになくなってしまっていた。これを取り扱っていたA&Fのカタログで、かのクリントンさん(葉巻の方)も誇らしげに乗っていたのを見た。
さて桜さく並木の下でナンパしたこの《ファットチャンス》は、まさにイメージそのままのカラーリング。<ヨー エディ>のチームモデルだと思うんだけど、10年以上経つのにその蛍光色はいまだ健在。だがこいつの一番のチャームポイント、実はBBとヘッドチューブの内側だ。一度だけ新品フレームのそのへんを見たことあるのだが、びっくりした。ピカピカのつるつるなのである。美しいのである。こういった表に出ない箇所は通常、サビだったりバリだったり適当に放置されることが多いのだが、そいつはまるで磨き上げられたかのように、滑らかな内側だった。今になって調べれば『シームド溶接』とかいうらしいが、こういうものこそが、高級フレームなんだなあと感動した覚えがある。
そんな話をすると、オーナーの方も喜んでくれて、いろんな想いのたけを伝えてくれた。「当時のパーツで組もうと思ってね」7速XTを探したんだけど見つからず、仕方なくその少し後に発売された8速XTRを見つけ、渋々ガマンしてるとか。その流れるようなデザインといぶし銀の美しさが今なお評判の初代900系XTRなのに、それでガマンなんて人には初めて会った。
グリップは、ジョニーTことトン・ジョマックがパッケージを飾っていたODIのマッシュルーム。当時感バリバリの蛍光イエローで、今どきファッションバイカーにはできれば内緒にしたい銘モデル。ピンクとかパープルもあった気がする。濡れると滑るが、素手でのニュルとした握り心地はいまだ忘れない。リムにアラヤRM-17、サドルにアボセット、シートピラーにはサカエと当時のスタンダードそのままな組み具合に、オールドスクール・オフロードライダーたちはいろんな思い出をフラッシュバックさせるに違いない。
オーナー的に納得できない部分がもう一つあって、みなさんもちろんお気づきだろうが、クラインのミッションコントロールである。ヤナギも使って勝ちまくってたこのハンドル一体ステムは当然ノーマル(!)サイズの1インチコラム。「モンキーで作ってた、ダイレクトクランプのピンク色のステムを付けたいんだけどね」。今どきあのフォークコラム・ダイレクトステムを知ってる人もなかなかいない。
では試乗だ。ほぼ街乗りだけなのでタイヤは細身だが、それなのに下のレンガ畳の振動は伝わって来ない。というより、フレームが滑らかに吸収しているというイメージだ。ニュルーンとスルーンと前へ出る。倒すととても素直に曲がる。ミッションコントロールのステム長は今にしてみりゃ長い(ヤナギはよくこれで勝ってたな)ので短いのにしたくなるが、ハンドルに頼らず乗れば、カラダの下でバイクは右へ左へ思うがまま。長年の夢が昨日、ついに叶った。
かたくなに独自の道を歩んできた《ファットチャンス》は、モノの質よりカネの量を好むシステムに負けた。その後、そのあり方としての願いをブランド名にこめた《インディペンデント》を設立したのは有名な話だ。しかし、オレの心を震わせた、あの美しいBBワークは、既に過去のものになってしまっていると聞く。実に残念である。まったく緑ってヤツは。