最近のサルサは29インチホイールのマウンテンバイク、いわゆる29er(トゥー・ナイナー、あるいはトゥエンティ・ナイナー)の雄として知られている。アメリカでは24時間耐久レースや、100マイルレースといった長距離エンデュランス系のイベントでよく使われ、愛されているそうだ。
もともとサルサは、ワカッた人に人気が高いというイメージのある、わりとコアなブランドである。サルサを創った男、ロス・シェーファーがそういう人だったから、というのがその理由の1つ。彼は現在はプロダクト・デザイナー、というより実際にモノを造っちゃう人として生きているようで、この間なんか、クルマのショーのため、3日でエンジンを0から造り上げたそうである。
では今、サルサを造り、売っている連中はどないだ。そこまでコアなのかどうかは知らないが、かなり走れる連中である。ボクもマウンテンバイクには、人並み以上程度には上手に乗れると自負しているのだが、そんなボクと開発陣&マーケティング陣とが、大笑いしながらトレールで一緒に遊んだ。そういえば、サルサにラインアップされてるバイクのコンセプト、素材やパーツ選びなどを読み込んでいくと、その走れる感じが反映されているのがわかる。毎年ちょこちょことモデルチェンジをしないのも(そもそも毎年変えるのが変だ)そういった理由なのだろう。なかなかに頼もしい。
さてそんな連中が造った、サルサの心髄とも言える29erの最新フルサスモデル《Salsa_Big Mama》。見た目もリアサスの機構も26er《El Kaboing》と同じではあるのだが、方向性とか乗り味とかは、全く異なるマウンテンバイクである。ホイールサイズの違いを差し置いてもだ。唯一似ているのは、こいつもやっぱり、名が体を表しているところ。結論から言うと、このビッグママは、まさにビッグなママ的な乗り味なのだ。
初めてまたがったときの第一印象がおもしろかった。あれ? これホイール26インチ? と思ってしまったのだ。それぐらい26erから乗り換えても違和感のないハンドリングだが、実際に走ってみると、そこはやっぱり29er。26erのつもりで乗ると、前輪が上がりにくかったり、コーナーでの挙動が1テンポ遅かったりする。
しかしそのゆったりとした挙動のタイミングに、いったんリズムが合うと、こいつは突如として安心感の固まりに変わる。大いなる母の愛に包まれたような乗り物になる。
いつの世も、母の愛は偉大である。子どもである乗り手が望むなら、その進路に岩があろうが根っこがあろうが、そんなものは乗り越え蹴散らし(ちょっとウソ)モノともせずに、子どもの選んだ進路を応援してくれる。おもしろいぐらい、スピードが落ちないのだ。29erだから、しかも4インチストロークのフルサスだから、と、理由はいろいろあるのだろうけれど、その結果として、戦車のような乗り心地が生まれた。地形上の最速ラインを、最小限の体の動きで走れるのだ。トレールで前を走る、長時間のフライトで腰の痛くなった先輩が「こりゃ楽だわー」と何度も叫ぶので、うるさくもあった。
しかし、その戦車感は、道幅の広いダブルトラックの下りで一変する。ぶっ飛ばすほど、26er的コントロール性の素直さが顔を出す。例えば林道で、隣のワダチに軽く飛んでラインチェンジ、みたいなときにも、スパンと飛べてスパンとキマる。長い下りから上り返してちょっとまた下ってるところで、その切り返しをきっかけにジャンプしてみると、これがモトクロッサーみたいなイメージでボカーンと飛べて気持ちいい。規模がでかいと、速度が出ると調子いい。
スピードバイク? そんな言葉が何度も頭の中に浮かぶ。シングルトラックだろうが、ダブルトラックだろうが、細かいことは気にせずに、人生でっかく行かなきゃ損よアンタ、という肝っ玉カアチャンの声が聞こえてくるかのようである。大いなる母は、ビッグサイズの似合うママだったのだ。
なのにスタンドオーバーハイトは低く、またがって地面に足を着いたときの股下には、トレールの中でも充分に余裕がある。足の長さに不自由しがちな極東ピープル、ガールズなどのスモールな人々への思いやりも忘れない。ビッグなママの細やかな心遣いである。