自転車に乗るのは、本当に楽しい。ボクの自転車に対するスタンスは『何に乗るか』ではなく『どこをどう乗るか』ということでしかないので、どんな自転車に乗っていようが、乗れりゃあ実はそれだけで楽しい。でもまあ乗るなら、自分の乗り方とリズムにばっちり合ったやつがいい。中でも長年連れ添ったやつに乗るのが一番自由で気持ちよくなれるのは、セックスとなんら変わるところはない。
がしかし、自分のできることを増やしてくれる自転車に乗れるのは、楽しいを超えてうれしい。今回、サルサの新車試乗会(with キャンプだホイ)で、久々にうれしくなれるマウンテンバイクに乗った。もしかしたら走ったトレールがすごく楽しかったから、うれしくなったのかもしれないが、先輩(元プロBMXレーサー)も乗ったあとの開口一番に「楽しいね、このバイク」と言っていたから、本当にそうなんじゃないかと思う。
《Salsa_El Kaboing》だ。日本語表記だと「エル・カボイング」てなるんだと思う。boing、ボイング、というのは日本語だと『ビヨーン』みたいなことになる。10年以上前に、サルサが出したリアサスモデルに付けられていた名前を、また付けたというストーリーを持つネーミングである。意味的に言うと『ザ・ビヨヨーン』てなもんか。
技術的に言うと、素材はスカンジウム。5インチ(130mmぐらい)動くリアサスはリンクに見えるが、機構的にはシングルピボット。スペシャライズド社はいい加減、例の『ホルストリンク』特許をオープンにしてくれないもんかと切に願う。スイングアームの動きを、サスユニットと薄いシートステーのしなりを組み合わせてコントロールしたものだ。動き的に言うと、まあリアサスならではのペダリング感だが、とくに悪くもない。
一方、とくに良いのは、このエル・ビヨヨーンが、名前通りビヨヨーンと飛ばせてくれるマウンテンバイクであるところ。
15年ぐらい前、ボクが当時存在したMTB専門誌の手伝いみたいなバイトをしてたころ、トレックが初のリアサスモデルをリリースした。名前は忘れたが、このトレックは、振動吸収とかなんとかいうより、よくできたバネであった。
当時いくつかのブランドがリアサスモデルを造っていた。『リアサス一気乗り』みたいな企画の手伝いだったと思うのだが、これら全部に乗れる機会があった。当時のボクは自転車でジャンプなんか飛べない人だったのだが、それでもトレックのやつに乗ってジャンプ飛び面に突進していくと、なぜかビヨーンと飛べたのだ。他のやつでは浮きもしなかったのに、こいつだけはビヨヨーンて飛べるのだ。うれしくて、何度も何度も何度も飛んだ。プロライダー君にバカにされても、それでも飛んだ。本当に飛べるようになったのは、それから10年以上経ってからのことである。
今ではそれこそ何に乗っても、ボクなりにそれなりに飛べてしまう技術を身につけてしまったため、これから述べることが全ての人に当てはまるとは思えない。でもこのエル・カボイングは、あのときの飛べてうれしいうれしい感を、久々に思い起こさせてくれたマウンテンバイクである。
トレール内のちょっとしたギャップで、軽くポイって飛ぶ動作をしただけでビヨーンて飛ぶ。その飛び方も、前に投げ出されるような危ない飛ばされ方ではなく、後ろに重心を残す、リア着地しやすい飛び方だ。ギャップで飛んで壁に着地してみたり、岩や根っこがジャンプのキッカーに見えてきたり。いつものトレールで、いつもよりクリエイティブに走れそうなバイクだった。
重量は重くない。というより見た目より全然軽い。素材であるスカンジウムのおかげだと思う。走りは決して軽くはない。今どきの5インチストロークのマウンテンバイクなら、当たり前の走りの軽さであり、軽くなさである。だが、そこらにあるフルサス マウンテンバイクになくて、コイツにあるのは、飛べる力を与えてくれるという点だ。その意味で、名はしっかりと体を表している。