フィンランドでは、オリエンテーリングというスポーツが盛んです。自然の中に、いくつかのチェックポイントが設定され、それを地図とコンパスを頼りにたどって帰って来るという、まあ言ってみれば単純なスポーツです。詳しくは、どっかで調べていただきたいもんですが、昔、ちょっと日本でも流行っていたような記憶があります。そういえば自転車でも『とれとれバイク』(オフィシャルのページはどこになるの? 石丸さん?)という名で、マウンテンバイクを使った同じ趣旨のイベントが開催されていますね。
オリエンテーリングは、フィンランドだけでなく北欧全体で盛んです。週末ごと、どころか週に何度も、地方のクラブチームが開催するオリエンテーリングのイベントがあるようです。実はこっちにくる直前のヘルシンキで、オリエンテーリングの日本ナショナルチームの一員である、小泉ナニガシさんという方にお会いしました。彼は、1ヶ月ほどフィンランドでトレーニングをして、7月12日にチェコで行われる世界選手権の準備をしていたとのこと。仕事とかどうしてるの? と聞いたら、勤めている会社に理解があって、実業団的な扱いにしてもらっている(つまり会社員のまま、レースに出場できる)とのこと。10年ほど前、檀拓磨くんや小林加奈子さん(やオレが)、お金をなんとか捻出しながら世界レースを転戦していたあの時代を思い返し、時代も変わったもんだなと、しみじみ感じ入ったものでした。
さて今日は日曜日。近くで地元オリエンテーリング・クラブによるイベントがありました。かなりアスレティックな人である友人は参加するのだ、というので、応援がてら見学にしてみることにしました。
クルマで着いた開催地は、もうどっかの自然のどっかの中。元は農地だったのか、掘建て小屋ぐらいはあるんですが、他にはとくに何があるわけでもない、フィンランドの大自然のど真ん中。ここに、次々とクルマがやってきては、老若男女が受付でサインアップし、森の中に消えていきます。ホントに盛んなんだなあと思い、どれぐらい参加者いるの? と聞くと、2週間前の大きな大会には、7人のチームで、1400チームほどの参加があったんだとか。応援の人とかも含めると、どれぐらいの規模なんだかあんまり想像つきません。
森(とかいろんなもの)の中には、あらかじめ設置されたチェックポイントがあり、そのチェックポイントに電気式のタグをかざすと、そこを通った証明と、タイムがタグに書き込まれていきます。コースは距離を選べ、そのコースによって回ってくるチェックポイントの数と場所が異なります。今回は最短で2.8km、長いので7kmほどでした。
参加費は4ユーロ。地形図の書かれた地図をもらって、その地図に、自分が参加するコースのチェックポイントを、自分で書き込んでいきます。地図には、とくに何が書かれているわけでもありません。驚いたのは、どっちが北か、方角すら書かれていないのです。そこにあるのは地形図のみ。チェックポイントの場所も、お手本のルートを見ながら自分で書き込んでいきます。信じられるものは自分の力のみ。それがオリエンテーリングの醍醐味のようです。
スタートでチェックした後、みんなガシガシと走っていきます。一見トレールランニングのようですが、違うのは、そこにトレールがないこと。地図とコンパスを持って、こっちだ、あっちだと、道を探しながら走ります。そんなイベントです。
「日本から来てさ、初めて見たんだ」と言うと、「日本では、やってる人はいないのかい?」と聞かれます。あんまり聞いたことないですね。だって、オリエンテーリングには、日本で流行らない明らかな理由があるのです。それは、そこに道がないから。
日本文化のメンタリティーとして、道がないところは歩けない、というのがあります。そこにある道をきっちり辿る、というのはそれこそ他の国の追従を許さないほど高レベルで得意なのですが、道がないところを、自分で探して歩いてちょうだい、となると、もうおろおろ歩きになってしまいます。これは辛口とか悪口とかではなく、純然たる傾向です。
一ヶ月ほど前に発売されていた『ナンバー』誌に、元サッカー選手、中田英寿さんのインタビューが載っていました。その中で、彼もこんなことを言っていました。「日本の選手は、こうしなさい、と言われたことはものすごくきっちりこなせるが、自分で考えて動きなさい、と言われると、とたんに固まってしまう」